ベーシックインカム導入事情 フィンランド

海外のベーシックインカム

ベーシックインカム制度は海外でも導入するかどうかの議論が行われています。 今回はフィンランドという国での導入事情を見ていきます。

ベーシックインカムの検討を始めたフィンランド

2015年の12月にフィンランドでベーシックインカムの導入を検討していることが判明しました。このとき一部の報道では「導入を開始する」という誤報も流れましたが、実際には検討の段階です。

制度の内容としては、フィンランドに住む全国民に月額800ユーロを支給するというものです(検討の段階なので金額に関しては調査次第で変わる可能性もあるようです)。本当に導入するかどうかは慎重に検討したうえで行われるようですが、もし導入が決定すれば大きなニュースになることは間違いないでしょう。

導入の検討に至った経緯

2015年4月に行われた選挙において、ベーシックインカムに賛成する立場の政党が多数を占め、与党となったことでベーシックインカムの導入に向けた動きが始まりました。

選挙から導入の検討のニュースが流れるまでに約8ヶ月ということを考えると、導入に対する意欲は結構高いように感じられます。

フィンランドでは経済の低迷が続いており、失業率だけで見てもここ近年は10%に迫る勢いとなっています。

フィンランド失業率

出典:フィンランドの失業率の推移(1980~2016年) – 世界経済のネタ帳

こういった状況を打開するためにベーシックインカムという方法を本格的に検討しているのでしょう。

財源はどうなのか?

ベーシックインカムを導入するときの問題点として財源の問題が挙げられます。与党の中にもこの制度に反対する声もあり、議論が重ねられているようです。

ベーシックインカムの最大の問題点は財源だ。Mashableによれば、月800ユーロを成人だけに給付するとしても、年間470億ユーロ(約6.3兆円)が必要となるが、2016年のフィンランド政府の歳入は、ほぼ同額の491億ユーロ(約6.6兆円)と予測されている。ただでさえ緊縮財政と予算カットで財政的余裕はない同国にとっては、財源確保は増税に頼ることになる、と同誌は述べている。

引用:国民の7割が賛成、フィンランドがベーシックインカム検討の背景 海外は実現に厳しい見方 – ニュースフィア

経済の低迷が影響しているのかはわかりませんが、そう簡単にはいかないみたいですね。それでも失業などで苦しんでいるフィンランドの国民にとってはこの制度に賛成する人は多いようです。

大きな決断になることは間違いないでしょうから、政府としても慎重に慎重を重ねるのは当たり前ともいえます。

結果はまだ出ていない

予定では2016年11月に導入するかの決定が行われるようです。様々な調査を行ったフィンランド政府がどのような決断を下すのかが注目ですね。

(2019年6月追記分)

ここまでの記事を書いたのが2016年8月なので、ここからはそこから2年以上経過した今のフィンランドについてまとめます。

実験の内容

2016年末に実験の内容がはっきりしました。この記事では当初「フィンランドに住む全国民に月額800ユーロを支給することが検討されている」と書いていました。実際、引用記事にも800ユーロという具体的な数値がありました。

しかし、実際の実験内容は「フィンランドに住む失業者の中から2000人を対象に、2年間だけ月額560ユーロを支給する」というものでした。私が参考にした記事自体がオーバーに書かれたものだったのかはわかりませんが、実際には検討内容よりかはかなり小さい実験となりました。

さすがに支給の期限ぐらいはあるだろうと考えていましたが、当時の盛り上がりからはかなり小さくなった話だと感じました。

実験は予定通り終了。どんな結果になった?

そして、2017年~2018年に実験が行われ、実験の延長を求める声もありましたが、2018年末に実験は終了しました。

2019年2月8日、2017年の調査結果が発表される

ベーシックインカムの実験1年目となる2017年の状況について2019年2月8日に、調査結果の発表がありました。その結果をざっくり言うならば以下のような感じです。

参加者の就労状況はそれほど改善されなかったものの、自分で感じる健康状態やストレス度は他のグループよりも良かったそうです。

引用:「おカネをただで配りましょう」ベーシックインカム実験の結果はどうなった フィンランドからの報告 – Yahoo!ニュース

フィンランド政府の本当の実験目的

この中の「就労状況はあまり改善されなかった」「健康状態などが良くなった」という結果自体に関してはあまり意外には感じませんでした。

ですが、個人的には妙に失業者に対しての言及が多いように感じたため、更にいろいろな記事を見ていくと、少し残念なことが見えてきました。

実験内容が発表された2016年8月25日、フィンランド人の希望は砕かれた

フィンランドにおけるベーシックインカムの実験内容は先程も言ったとおり「フィンランドに住む失業者の中から2000人を対象に、2年間だけ月額560ユーロを支給する」というものです。金額や期間はともかくとして、失業者の中から2000人という対象は、逆に言えば「働いている人は無条件から実験の対象から外される」ということになります。

フィンランドの失業率がひどくなっていると書きましたが、それでも10%です。逆に言えば残りの90%の人たちにとっては一気にどうでも良くなったのです。

なぜ「失業者」が対象となったのか?

人数が限定されるだけならまだ「いや、いきなり全国民は常識的に考えて無理だろう」という反論ができます。しかし、それならばなぜ対象条件に「失業者」が含まれているのでしょうか?

 

ベーシックインカムをどのように捉えているのかは人それぞれだと思いますが、少なくとも本サイトにおいては「一人一人に無条件でお金を継続的にもらえる制度」と定義しています。

この制度は本格的に導入するならば、国全体の仕組みが変わりかねない大きなものです。当然デメリットも多く指摘されているために社会実験を行った上でこの制度が実現可能なのかを考えなければなりません。

そのためには、支給する人数や期間は限定するにしても、支給する人の身分で分けてしまうと「実際に支給したときに人々はどのような行動をするのか」という部分が正しく調査できません。

一人一人と言っても、普通に正社員で働いている人、富裕層で贅沢な生活をしている人、子育てシングルマザーなど、いろいろな人がいます。失業者というのはその中の一グループにしか過ぎません。

 

ここまで言えば、フィンランドが実際には何をしようとしていたのかがもうピンときているかもしれません。

政府による給付実験は、失業者を狭義の雇用に押し込むことに主眼を置いていることが明らかだったのである。

引用:フィンランド「ベーシックインカム実験失敗」報道は“誤報”? 理念とは程遠いその実態 – BUSINESS INSIDER JAPAN

フィンランド政府にとって、ベーシックインカムとは貧困などの様々な問題を解決させるための大きな政策ではなく、失業率を改善させるための小さな政策でしかなかったのです。

一部の記事には「フィンランドのベーシックインカムの実験は失敗した」と書かれています。確かに、2019年2月の発表と目的が「失業率の改善」であるならば失敗と言えるでしょう。しかし、この実験が本来の意味でのベーシックインカムの実験だったのかと言われるとそれは少し違うような気もします。

実験からわかったこと

といっても、これも一応実験です。「就労状況はあまり改善されなかった」・・・これは語弊を恐れずにわかりやすく言い換えるならば「無職の人にベーシックインカムを渡しても無職のままになる可能性が高い」とも言えます。これは今後ベーシックインカムを考えていくにおいて一つの判断材料となるでしょう。

そしてあまり大きく取り上げませんでしたが、「健康状態などが良くなった」という結果はまさにベーシックインカムのメリットが現れていると言えるでしょう。

なぜベーシックインカムで失業率が改善すると考えたのか?

私は別の記事でベーシックインカムと失業者についても書いていました。記事のタイトルは「ベーシックインカムは失業者も救うことができる?」。そこでは簡単に言うと、「ベーシックインカムでお金の問題はなんとかなるけれど、新しい仕事が見つかるかどうかは別問題」という感じで書いていました。

考えてみれば、「ベーシックインカム」と「企業が人を雇いたいかどうか、またいい仕事があるかどうか」は直接的にはあまり関係のないことです。

ベーシックインカムはあくまで一人一人が最低限の生活に困らないようにするための政策であり、経済全体を改善させるための政策ではないのです。

失業者がベーシックインカムをもらったところで企業側にとっては何ら関係のないこと・・・と考えれば「就労状況はあまり改善されなかった」のはある意味妥当な結果に終わったのかもしれません。

 

失業率を改善させるのであれば、ベーシックインカムではなく他の政策が必要ということも改めて判明しました。

 

 

いろいろとまとめましたが、まだ2018年(2年目)の調査結果は発表されていません。今の段階ではこのように結論づけましたが2年目では何かが変わる可能性もあります。2020年の発表を待ってみましょう。

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