アメリカのアラスカ州では、すでにベーシックインカムが導入されているのです(厳密にはベーシックインカムではないのですが)。今回はそのアラスカ州についてみていきます。
アラスカ州の制度
まずは、アラスカ州ではどのようなベーシックインカム制度が導入されているのかを確認してみましょう。
アラスカ州の場合、州の居住者全員(1歳以上の赤ちゃんを含む全員)に対して、1年あたり1000~2000ドルを支給している。
支給する額は年によって様々な要因で変動するようですが、一番低く見積もったとしても1年で1000ドル、1ヶ月あたり約83ドルを支給しているようですね。
83ドルあれば最低限の生活はできるか?
さて、83ドルは日本円に換算すると8300円くらいとなります(1ドル100円で換算)。8300円と聞くとしょぼい金額に聞こえてきますが、実際にアメリカの生活費はどれくらいかかっているのでしょうか? 一人暮らしをしたときの生活費でかんがえてみます。
シェアアパート家賃(光熱費含む)の目安 1ヶ月 $650~$750
食費の目安 1ヶ月 $300
交通費の目安 1ヶ月 $112
雑費の目安 1ヶ月 $200~$300
1ヶ月の家賃・生活費の合計 $1262~$1462
うん。これだけ見るととても83ドルでやっていくのは無理ですね。(この金額はニューヨークに住んだ時の生活費ですが、ニューヨークとアラスカの生活費指数があまり変わらないため、参考になると考えてこのデータを引っ張ってきました。ちなみにニューヨークもアラスカもアメリカ全体の生活費の中では高い部類に入ります。)
最低限の生活はできず、さらに受給条件も厳しい
上記でベーシックインカムのみでは生活できないということがわかりました。それでもアラスカにいればタダでお金がもらえるからいいじゃん、と思う人もいるかもしれませんが、残念ながらアラスカに移住して受給するためには厳しい条件が必要なのです。
そもそもアラスカに本気で住む気があるのか?
ベーシックインカムを受給するためには以下の条件を満たす必要があります。
基本的に申し込む前に1年以上(正確には1月から12月まで)アラスカに居住しており、かつ支給される間ずっと住み続けていないといけない(死ぬまでという意味のようだ)というのが基本ルールのようだ。
(中略)
アラスカに居住していることを証明するための書類として求められるのは、
家財一式を1月の前にアラスカに持ってきており、かつその引っ越しのときの契約書(雇い主が引っ越し業者と結んだ契約書は不可)
家が自分のものであることの証明書、家を買ったときの契約書、もしくは家賃の領収書などメインの家がアラスカにあることを証明するもの(雇い主が家を用意しているのは不可)
職歴(働いていなかった時期もレポートすること)
学歴(高低でなく、あくまで記録として)
選挙権の申請と選挙の投票記録(こんなのがあるんですね)
車の登録書類
ハンティングやフィッシングのライセンス記録(さすがアラスカ、ハンティングはともかく釣りもライセンスがあるんですね。)
裁判その他の行政上の記録
さらにアラスカに本気で永住する気があるかどうかとして、アラスカに住み続けようと努力していることに加えて、以前住んでいたところに戻れないように向こうの住居環境を切り捨てていること。
このほかにも色々と条件が付いています。要するに、「ベーシックインカムがもらえるからアラスカに住んでみよう」という人でなく、「私は本気でアラスカに住みたいんだ!」という人にもらえるような制度になっているのですね。
さらに、ベーシックインカムをもらい始めてからも、家だけアラスカにおいて1年の大部分は他の場所で暮らす、なんてことができないように一定期間アラスカに滞在し続けなければなりません。これを破るとベーシックインカムはもらえなくなります。
アラスカのベーシックインカムがあまり注目されないわけ
最近EUで活発化しているベーシックインカムがアラスカで既に始まっているのに注目されないのは、アラスカで行われているこの制度がベーシックインカムの本来の目的である最低限の生活を保障するものでないからだと考えられます。
もともとアラスカのこの制度はベーシックインカムを行う目的で始めたわけではないため、金額も少額となっています。(ベーシックインカムではなく分配金と呼んでいることもある。)
厳しい受給条件は不正受給などを阻止するために必要なのでしょうが、それ以前に食費すらも賄えない金額ですからね。ベーシックインカムと呼ぶにはちょっと違う制度なのかもしれません。
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